大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和55年(行ウ)52号 判決

原告 宗教法人世界救世教 ほか四二名

被告 建設大臣

代理人 榎本恒夫 秋山弘 河野功夫 ほか七名

主文

本件訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五五年一月一六日付建設省告示第一二号で別紙図面の地域についてした都市計画道路(八丈都市計画道路事業3・4・1号底土空港線)事業認可処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  被告は、東京都知事が昭和五四年三月二九日付で行つた八丈都市計画道路三・四・一底土空港線(延長約三七二〇メートル、以下「本件計画区域」という。)にかかる都市計画の決定(以下「本件都市計画決定」という。)に対し、別紙図面記載の延長二〇六二メートルの部分(以下「本件認可区域」という。)につき昭和五五年一月一六日付で都市計画法五九条及び六二条の規定により都市計画事業の認可(以下「本件認可」という。)を行つた。

2  しかしながら、本件都市計画決定は既存の道路の拡幅によつてその目的が十分に達せられるにかかわらず原告ら関係住民の意思を無視して立案された点において手続上の瑕疵を伴うのみならず、その実施により八丈島の防災機構を大きく破壊して周辺の宅地や農地に風害等をもたらし、かつ同島の良好な環境や自然景観を著しく害するのであつて、かかる都市計画の決定に基づく本件認可は違法であるから、その取消しを求める。

3(一)  都市計画事業の認可は抗告訴訟の対象となる処分である。すなわち都市計画事業の認可により当該事業が開始され、買収、換地、収用等が行われるほか、これに続く告示がなされることにより土地の形質の変更・建築等の制限(都市計画法六五条)、土地等の先買い(同六七条)、土地等の価額の固定(同七一条一項、土地収用法七一条)などの規定が適用されることになるのであるから、事業予定地の所有者にとつてその権利、義務に具体的な影響を与える処分であるといえるのであつて、これが単なる上級行政機関の監督手続たる性質を有するにすぎないとはいえず、都市計画法六一条からみても認可権者の自由裁量による処分と解されるのである。

都市計画事業の認可が抗告訴訟の対象となりうることは、判例上土地収用法の事業認定について肯定されているのと同様に解すべきである。すなわち、都市計画法は土地収用法の特別法とでもいうべき法律であり、都市計画事業の性質上若干の特則が設けられているのみであつて、都市計画事業の認可は土地収用法に基づく事業の認定に相当する処分であり、買収が困難である土地を収用する権限を付与する手続であることに両者の本質的な相違はないし、都市計画事業の認可に対する不服申立てについても土地収用法一三〇条等の適用があるものというべきであるから、これが抗告訴訟の対象となることは明らかである。また都市計画事業において土地収用法二九条が適用されないのは事業施行期間の経過により都市計画事業の認可が当然に失効するからであり、これをもつて都市計画事業による収用権限と土地収用法に基づく事業の認定による収用権限との間に本質的な差異があるとすることはできない。

これを別異に解して収用の裁決に至るまで法的救済の道がないとすることは抗告訴訟による救済の途を事実上閉ざすことになり、権利の侵害を受けた者に対する保護の手段としては不十分である。

(二)  原告らは、本件認可区域に土地、建物を所有してはいないが、原告宗教法人世界救世教、同土屋政一郎、同青山倫子、同青山典子、同奥山富治、亡板川福訴訟承継人板川輝之、原告丹下省吾は本件認可区域の範囲外ではあるが本件計画区域に存在する不動産の所有者であり、本件認可により都市計画法六五条以下の規制を近い将来に受けるべき差し迫つた地位に置かれ、また右原告ら及び本件都市計画決定の対象となつた東京都八丈島八丈町の住民などであるその余の原告らは、本件認可とこれに基づく都市計画道路の完成により前記主張のように風防が破壊されることなどにより住環境もしくは所有不動産の環境の悪化を余儀なくされ権利の侵害を受けるから、いずれも本件認可の取消しを求める訴えの利益を有する。

二  被告の本案前の主張

1(一)  都市計画事業の認可は都市計画事業の内容が都市計画に適合しているかなど都市計画法六一条が定める要件を充足するか否かを審査し施行者に都市計画事業を施行する法的地位を付与する行為であり、本件認可も被告が都市計画事業の施行者たる東京都に対して行つたものであるように、上級行政機関が下級行政機関に対する監督手段としての承認の性質を有するもので行政機関相互間の行為と同視されるべきものであつて、これにより直接に国民の権利、義務に具体的に変動を与えるものでなく抗告訴訟の対象となる処分にはあたらないから、本件認可の取消しを求める本件訴えは不適法である。

(二)  もつとも本件認可が告示されると本件認可区域に土地を所有する者に対しては建築の制限や先買権などを定めた都市計画法の規定の効果が及ぶことになるが、これらは建築等による経済的損失の防止や合理的な土地の取得などの観点から法が特別に与えた付随的効果であつて、これをもつて特定の個人に向けられた具体的処分であるということはできない。

(三)  また都市計画事業の認可は土地収用法二〇条による事業の認定に代るものとされる(都市計画法七〇条・六九条)が、両者はその性質が著しく異なるので、後者を抗告訴訟の対象となる処分であるとする見解があるからといつて前者については同様に考えるべきことにはならない。

すなわち土地収用法に基づく事業の認定は、既に他の法令に基づいて事業を施行する権限を付与され相当程度起業地の取得を進めている起業者に対して、当該起業地の任意買収等が困難で、まさに現在収用又は使用する必要が生じた場合に、これらの土地等を強制取得等することができる収用権限を与えることを目的とする処分であるのに対し、都市計画事業の認可は都市計画事業の施行者をはじめて決めるとともに、以後施行者に当該事業を行うことのできる包括的な法的地位を付与するものであり、究極的には施行者に事業地の収用権限を与えるものの、いわゆる先買権、買取請求権等の制度を利用しさらに任意の用地買収によつて都市計画事業の施行を期待するものである。このことは土地収用法は事業の認定の告示後一年以内に収用又は使用の裁決申請をしないときなどには事業の認定が失効すると規定しているのに(土地収用法二九条、三四条の六)、都市計画事業はその目的を定めた都市計画法の定めからも明らかなとおり規模において遠大であり多大の財源を必要とすることから、その施行には相当長期間を要し、現実に土地の買収に着手するまでにはさらに相当長年月を要する場合も少なくないので、都市計画事業については土地収用法二九条の適用が除外されていることからも首肯できる。

このように土地収用法に基づく事業の認定はまさに買収困難な土地を収用するための手続であるということができるのに対し、都市計画事業の認可は施行者を定めることにより施行者をして用地買収の交渉など当該事業遂行のための第一歩を踏み出すことのできる地位を与えるものであり、任意買収ができなかつた場合にはじめて収用権限が意味をもつてくるものであつて、同じく収用権限が付与されるとはいつても前者の場合は具体的であるのに対し後者の場合は抽象的、一般的な権限付与であるというべきである。

なお都市計画事業については都市計画法六九条、七〇条により土地収用法の各条の適用があるから同法一三〇条ないし一三二条を根拠に都市計画事業の認可を抗告訴訟の対象となる処分であると解する見解もあるが、都市計画法七一条以下に例外規定がない限り同法六九条、七〇条の規定により土地収用法のすべての規定が当然に都市計画事業に適用されるものではなく、前述の土地収用法に基づく事業の認定と都市計画事業の認可との性格の相違からすれば都市計画事業の認可につき土地収用法一三〇条等の適用の余地はないことは明らかである。

(四)  都市計画事業の認可を抗告訴訟の対象となる処分と解した場合は、これを争わない多数人が関与しないまま都市計画全体を取り消さざるを得ない事態が生ずることがあり、個人の権利、利益の救済を目的とする抗告訴訟としてはその本来の目的から逸脱するおそれがあるばかりか、都市計画事業の推進は不可能となつてしまい行政の能率的運営を甚しく阻害することにもなる。

原告らは本件認可に引続いて都市計画事業が施行されて収用裁決処分を受け、あるいは建築の不許可処分がなされるなどしたときに本件認可の違法を主張してこれらの処分の取消しを求めることができるのであるから、原告ら個人の不利益の救済はこれをもつて足りるというべきである。

2  原告らは本件認可区域に土地、建物を所有する者ではなく、本件認可によつて直接権利、利益を侵害されることはないから、その取消しを求める法律上の利益はない。

本件計画区域内の不動産の所有者についても、仮にこれらの者が不利益を受けるとしても、その救済は具体的処分がされた段階でこれを争うことにより十分達成することができるので、その法律上の利益は未成熟であるといわざるをえない。

3  原告住民無視の八3・4・1道路に反対する会については、その組織、活動の実態において訴訟当事者となるための要件を充足しておらず、当事者能力を有しないし、仮にこれを有するとしても、本件認可により具体的に変動を被る団体固有の財産上の利益を有しないから、いずれにしろその訴えは不適法である。

第三証拠<略>

理由

一  本件訴えにおいてはまず都市計画事業の認可が抗告訴訟の対象となる処分であるかどうかの問題があるが、その点を仮に肯定するとしても、以下に述べるように原告らには本件認可の取消しを求める法律上の利益を有しないことが明らかである。すなわち、

原告らが本件認可区域に不動産に関する権利を有する者でないことは当事者間に争いがないから、原告らは本件認可により土地の形質変更、建築等の制限(都市計画法六五条)、土地建物等の先買い(同六七条)、土地等の収用又は使用(同六九条ないし七三条)等の不利益を受ける地位にないことは明らかである。

原告宗教法人世界救世教らは、本件認可区域の範囲外であるが本件計画区域内に不動産を有し本件認可により建築制限など都市計画法上の規制を近い将来受けるべき差し迫つた地位に置かれるので本件認可の取消しを求める法律上の利益があると主張するが、その主張する不利益は本件認可により現に生じているものではなく、将来ありうる別個の都市計画事業認可処分等により具体的に生じうるものであるから、これが救済は右処分等がされた段階でこれらの処分を争うことにより達成されるべきものであり、到底本件認可の取消しを求める法律上の利益と認めるには足りないものである。

さらに原告らは本件認可に続く事業の実施により八丈島の防風機構が破壊されて自然災害を惹起されると主張するが、各原告についていかなる権利侵害を受けるかはその主張のうえでも必ずしも明らかではなく、かかる権利侵害をもつて本件認可を取り消すについての法律上の利益があるということはできないし、また原告らの主張する本件認可に基づく事業の施行による環境の悪化、自然景観の破壊などについても、このような良好な環境や自然景観を享有できるといつた一般的利益をもつて抗告訴訟にいう法律上の利益にあたるということはできない。

二  したがつて原告らの本件訴えは、その余の点につき判断するまでもなく、原告らに本件認可の取消しを求めるについての法律上の利益がないという点で不適法である。

よつて本件訴えはいずれもこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 時岡泰 満田明彦 菊池徹)

別紙 図面<略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例